11月 実験参加者の声(椎野さん)
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実験参加者の声(椎野さん)
11月20日、私はユビキタス・ラジオを片手に清水に続く道に立っていた。
先日も触れた「音のお出かけ地図」の3回目の実証実験に参加し、一人でゆっくりと歩きながら無機質なPDAの声にじっと耳を傾けている。
参加者はSCCJスタッフ・京都ライトハウス関係者・マスコミを含めて20名程度といったところだろうか。好天にも恵まれたおかげでスムーズに実験が進められ、参加者一同すっかり秋の京都を満喫させてもらった。
「音のお出かけ地図」は、本来目で見て認識もしくは楽しむ事柄を言葉、文字情報に変換して視覚障害者に提供しようというのが狙いだ。PDA内に予め取り込まれて
いるデータには観光地情報・お土産や飲食に関する店舗情報に加え、歩行の際の段差を知らせる危険情報やお手洗いの情報が含まれている。表現方法も、通常のガイドブックとは異なり、足の裏で感じる触覚、漏れ聞こえる音、お店から漂ってくる匂いなど、とにかく視覚以外で認知できる情報を丁寧かつ正確に表現している。
視覚障害の方は他の方に手引きされ、ユビキタス・ラジオから流れる音声を楽しみながら散策していた。僕は、せっかく視覚障害者が単独で歩けるようなデータが入っ
ているのだから、手引きの手を離れてたった一人で清水坂を上っていった。
ユビキタス・ラジオは一度再生すると一時停止ができないので、その音声は一定のスピードで流れ続ける。一人で歩いていると、果たして今流れている説明が今歩いて
いるところであるのかは非常に疑問である。ここは発想を変えて、ただ単に歩くのではなく中に収められているデータを頼りに自分から目的に向かって探してみようと思いたった。
「音のお出かけ地図」によると、清水寺に向かう途中左手に八橋のお店があるらしく、そこでは試食ができるとのこと。僕はここに狙いを定めて、地図に示してある
「甘い匂い」を探した。確かに熱を加えたような甘い香りがあった。加えて「売り子さんの呼び込みの声」と示している通りの声が聞こえる。少々不安はありながらも、お店の中にずかずかと入り込み手を伸ばして探ってみると、売り物の傍にお重に詰めてあるむき出しの八橋を見つけた。これで私は無事に「八橋ただ食い」の目標を達成することができたのである。
実験後の意見交換会では、「一時停止機能が欲しい」とか「GPS機能が欲しい」とか「データを無腺で受信できる機能が欲しい」などなど、ハード的な要求が出され
たが、僕は今のままでも充分使えるとの手ごたえを感じている。確かにハード的に様々な機能を加えることができるならばそれに越したことはない。しかし、これはあくまでも「音のお出かけ地図」なのであり、これ事態が視覚障害者を導くことは念頭にはおいていない。自分たちには視力はないが、目的地まで自力で行ける足がある、道に迷えば人に尋ねることのできる口を持っている。道具はあくまでも自分に欠けているところを補助すればいいだけであって、それをどのようにうまく活用できるかはユーザーの目的意識や使い方で大きく左右される。
今回のプロジェクトの大きな特徴は、コンテンツ作成に視覚障害者自らが参加し、開発に取り組んでいったことである。ただ単にアンケートを集計して意見を出してもらうだけではなく、開発に携わってもらうことによりダイレクトに意見が反映され、開発者側の一方的な解釈や誤解を防ぐことができたのではないだろうか。
一昔前、トランジスタラジオ片手に街中をぶらつくのが流行った時代があった。「音のお出かけ地図」も、今はガイドブック片手に観光することから、耳で情報を聞きながら観光地を散策するような、新しい「観光のスタイル」が確立すれば視覚障害者だけではなくあらゆる人に楽しめるものになると思う。おそらく、地図のコンテンツ量が増え充実していけば、価値や活用法も広がっていくのではないだろうか。(椎野)
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