「企業人も地域社会活動を」
個の確立へかかせぬプロセス
発想の転換必要に
京都新聞 2000年9月19日「提言」掲載記事
日本サスティナブル・コミュニティ・センター
事務局長 浅野令子
2000年9月19日 京都新聞 提言 21世紀には、しなやかな「個」が期待されている。昨年出された「21世紀日本構想」懇談会報告書では、「多様性が基本となる二十一世紀には、自分の責任でリスクを負い、先駆的に挑戦する『たくましく、しなやかな個』が求められる。」と「個」の確立が日本のみらいを切り開くとしている。
NPO団体の事業や運営に携わるようなコミュニティー活動を行うことは「先駆的に挑戦する個」の確立には欠かせないプロセスであり、発想の転換を図り、新しい社会・経済システムを考案する際、重要なカギを握る。しかし、日本では企業のオーナーやエグゼクティブが「普通人」として、どのくらいコミュニティー活動を行っているのだろうか。時代の転換期、本業に忙しい企業オーナーやエグゼクティブの方々に、敢えて、コミュニティー活動をお勧めする。
■NPOとかかわる
アメリカで、エグゼクティブがコミュニティー活動をする理由はたくさんある。社会をよくするため、企業イメージをアップするため、事業拡大のためのネットワークづくり、友達に頼まれたから、自分の履歴がよくみえるから、個人的な関心等々…。アメリカには履歴書に財団・美術館・NPO団体での理事歴を記すことは、エグゼクティブの社会的価値の判断材料にも使われているようだ。
近年アメリカでは、NPOと深くかかわり、地域の発展に寄与する会社が増えてきている。エグゼクティブのリーダーシップや事業形成能力は、コミュニティーを潤いとゆとりのあるものにし、元気な地域社会は、優秀な人材を企業に供給でき、地域の健全な購買力は企業にとって魅力的だ。企業もそれをよく知っており、NPOの理事になるなどコミュニティー活動を専門に行う重役を配する企業もある。経営理論で有名なピーター・ドラッカー氏は、非営利団体の経営強化を目的とするピーター・ドラッカー財団を1990年に設立したが、その財団の理事の中には、有名企業の社長や重役が含まれている。
■可能性への挑戦
米国シアトルは、ビル・ゲイツ氏をはじめとするITミリオネアのメッカだ。ソーシャルベンチャー・パートナーズというNPOでは、若きITミリオネアとNPOを組み合わせ、NPOの経営の近代化や、エンパワーメントを行うと同時に、コミュニティー活動の重要性を若いミリオネアに教えている。厳しい競争社会で勝ち抜いてきたエグゼクティブは、ともすれば地域に住む人たちとの接触がなくなり、自分も普通の人間であるという感覚がなくなりがちだが、コミュニティー活動を行った経験のある人たちは、自分や会社の存在価値の問い直しができ、それが、多様化する社会に対応する企業の経営方針やマーケティングの刷新につながっている。
NPOは、営利目的ではなく、特定のテーマや関心によって人がボランタリー(自発的)につくるもので、商業ベースにのらなかったり、税金の無駄遣いになるようなリスクのあるプロジェクトに対しても挑戦でき、NPOの新しいアイデアや事業開発のインキュベーション(孵化)にかかわることで、自己啓発や本業の客観的評価ができ、ビジネスの新しい展開もおのずと見えてくる。 SCCJ(NPO)でもインキュベーションの一環として、地域情報化教育事業のひとつである視覚障害者のための情報化教育を、今年10月に「京都福祉情報ネットワーク」(Win-kyoto)として独立させるほか、伝統文化の二十一世紀的活用事業として、インターネットを駆使した「和文化」プラットホームをめざす「愛きもの株式会社」を立ち上げた。
孟子のことば「先義後利」は大丸を興した下村家の家訓でもある。孔子の「徳とは本(もと)となり財とは末なり」という言葉もある。まずコミュニティーありき。企業オーナーやエグゼクティブの方々に、コミュニティー活動を積極的に展開して頂きたいのである。