報告 2001年6月26日 「環境、経済、社会倫理を評価する 宝酒造の事例から」

掲載日時 2001-6-26 16:13:00 | トピック: レポート

2001年6月26日 エコミュニティ研究会 SCCJ公開リポート 

■ テーマ  環境、経済、社会倫理を評価する
       宝酒造の事例から
講師 宝酒造 環境部長 吉田 陽(よしだ あきら)氏

<環境マーケティング>
最近は、環境活動が企業価値に結びつくようになっている。
企業の環境問題と言うと、工場での公害対策が中心で、環境報告でも工場での対策について述べられているものが多い。
環境負荷は、業種によって発生場所が異なっている。エネルギー産業では、工場での環境負荷が高く、電気製品や自動車などは、製造段階よりも排気ガスなど世の中で使われている時の環境負荷が高い。
酒造メーカーでは、消費後の容器や包装が要らなくなった時の環境問題が非常に大きな責任となっている。そのため、酒類メーカーの環境報告書では、消費後の問題についていかに述べられているか、情報公開されているかが重要であると言える。
企業が環境問題の法的責任を果たすことは当然であり、その上にある社会的責任を自主的にどう果たすかが重要である。イメージ戦略は、いい意味で、企業が社会に評価されることにより、さらに環境問題への取り組みを推進できることで、環境広報をする(=うまく社会にコミュニケートする)ことが重要である。

従来、食品メーカーは公害問題で騒がれることが無かったので、利益を社会へ還元する「社会貢献型」の環境活動からスタートしている企業が多数であった。自然保護活動にお金を遣い、グリーンキャンペーンを行っていた。
ところが、自社の環境負荷は低いから社会貢献をやっていたら良いという時代は過ぎ、食品メーカーでは商品の容器保存の問題が環境問題として起こってきた。容器保存問題を念頭に置いた商品開発を行うことが必要であり、現在はISOなどを取り入れて、経営そのものをグリーンプロダクツにするという流れになっている。

<宝酒造における環境活動>
当社はもともと酒造メーカーなので、いいお米と水が無ければ、いいお酒が作れない考えがあり、「自然の恵みを自然に返す」「宝は田から」というスローガンのもとに、商品開発が行われてきた。
具体的な活動として、1979年北海道で豊平川に鮭を戻そうという「カムバックサーモン」運動を市民運動と連携して行った。北海道での社名の認知と拡販を目的として始めた経済活動であったが、結果としてシェアが伸び、市民運動にも日本各地へ、遠くはカナダまで広がりをもたらした。この活動を通し、酒類メーカーにとって、環境問題は重要なテーマであると認識し、昭和60年、「自然との調和を大切に、発酵技術を通じて人間の健康的な暮らしと生き生きとした社会作りに貢献する」という企業理念を決定した。
21世紀になって、この理念に基づき、発酵技術の延長にあるバイオ技術が、環境ホルモンを分析するためのキット作りや遺伝子組み替え作物を検出するビジネスなど、社会問題を解決する分野で活用されている。

社会貢献活動から始まった環境問題への取り組みは、世界標準のISOやゼロエミッションなどの国際的に認められた手法、計数管理で環境負荷を削減していく状況が必要となってきたため、97年7月から「エコチャレンジ21」という社会貢献と環境負荷削減をトータルで取り組む活動をしている。
97年は焼酎への増税が行われ、企業としては経営の苦しい時期であり、環境活動への取り組みに疑問の声もあったが、企業の存在意義は、過去のES(従業員満足)からCS(顧客満足)へと移り、現在SS(社会満足)が加わった。企業はCSとSSのバランスを取りながら、その間にある飲酒問題、環境問題、バリアフリーに一定のコストをかけることで、長期的には持続的な成長活動が行えるとの認識で、環境問題に取り組むべきであると定義した。

企業の環境対策は、社会貢献的な認識だけでは企業の業績に影響されやすく、不況だからと環境対策がおろそかになると、経済に大きなデメリットを及ぼしかねない。そこで、環境活動を企業活動にビルトインし、環境活動で経済を合理化、効率化しようとしたのである。 
商品開発は、環境適合性の観点から適性水準(付加価値)を見直し、環境負荷とコスト削減をめざした。
具体例1:ペットボトル焼酎には異素材の「取っ手」が付いていたが、分別工場で取っ手がリサイクルしにくいクレームがきた。取っ手を外すべきかどうかの議論が行われたのだが、取っ手を外してしまうと売れなくなるのではないかという危機感があった。まさに、環境と経済のトレードオフ関係にあったのである。議論の結果、ペットボトルのリサイクルの重要性を考慮して、ペットボトルの形状を持ちやすく変更した上で取っ手を外した。さらに、「エコペット」と名付け、環境に配慮した改良であることを前面に出した広告を行ったところ、売上拡大につながった。「取っ手」を外した分、コスト削減になり、リサイクルもしやすくなった上、利益も上がった。ペットボトルのリサイクルそのものには問題もあるが、環境とコストダウンを両立した例である。
具体例2:お酒の紙パックは内部にアルミ箔が張ってあるので、牛乳パックのようにリサイクルできない。そこで、蒸着という方法が使用されるようになり、一定の工場ではリサイクルができ、燃やした場合でもアルミかすが減るので、環境負荷が減った。しかも、アルミはコストの高い原料であるので、コストダウンになった。
具体例3:本みりんのラベルは、商品名がペットボトルに埋め込まれて、リサイクルできない印刷になっていた。しかも、ビニールを使用していて、剥がしにくい苦情がきたので、紙帯に変えたことで、リサイクルし易くなり、コストもさがった。
従来、「消費者便宜性」「品質保存性」「デザイン優位性」は、環境問題よりも優勢していた。しかし、「リサイクル性」から見直すことによって、環境負荷削減とコストダウンの同時実現を行ったのである。

環境コストには、地球が支払っている外部環境コストと、企業が負担している内部環境コストがある。資源の枯渇、大気汚染、温暖化など環境破壊の進行には、地球がその分の環境コストを払っていると考えられるが、いつまでも払い続けられるわけではない。
企業は天然資源利用税、使い捨て容器税、生産工程で出る廃棄物処理コスト、炭素税の導入といった形で外部環境コストを負担し、リサイクル原料を使った商品開発をして、生産工程ではゼロエミッションを使い、消費後の処理はできるだけ自主回収するシステムを作る必要がある。焼酎メーカーでは、リターナブルシステムと量り売りに取り組んでおり、スーパーやビール業界でも始まっている。

こういった活動を、できるだけ世の中の人々にきっちりと伝えて、当社の活動を支援していただくことで、環境活動へ取り組みやすくなり、同業他社も同様の行動を起こさなければならない流れにつながるのである。

<環境会計>
当社は環境報告書を98年から出しているが、この中で緑字決算を一般に公表している。
地球環境から投資を受けて企業活動を行い、その結果、生じた利益を社会貢献として、自然保護活動などを行い、投資家である地球に還元するものである。
特徴は、地球環境への貢献度の統合指標化で「環境負荷削減緑字」と「社会貢献緑字」で、この2つが緑字決算の骨子である。
「環境負荷削減緑字」の決算手順は、①地球環境への負担を、調達と廃棄の11項目に分類する②これらは単が違うので対97年度比の改善率を算出する③環境問題の重要度で加重平均値を求める④改善率1%=1EOC単位を用いる、である。

環境問題については、科学的データを積み上げてもすべての人が納得する重み付けは難しいので、世の中の人がどう思っているのかという意識で重み付けするパネル法を用い、決定までのプロセスを透明にして、最終的に5段階評定で決定した。この結果、99年度は97年度に比べ25ECOのプラス、「社会貢献緑字」は、マイナス20ECOであった。マイナスの情報も隠さず公表することで、信用あるものとなっているのである。緑字決算のポイントは「総量」で表されていることで、二つの緑字で決算のバランスを取ることができるが、差し引きすることは行わない。

環境会計には米国型と欧州型がある。今、日本で用いられているのは米国型である。米国型は、「金額指標」「環境コストとその企業にとってのリターンを表記」「投資家への説明責任」から発達したものである。欧州型は、緑字決算と全く同じで、「物量指標」「地球環境への負荷の状況を指標化」「社会への説明責任」がある。米国型には、「経済効果単位型」と「環境保全効果単位型」がある。当社は、欧州型の緑字決算と、米国型の内、「環境保全効果単位型」に力を注いでいる。「環境保全効果単位型」では、項目毎の環境コストが算出されるので、企業の環境活動で必要な対策を打つことができるのである。

<環境会計の今後>
経済目的のための環境会計は、企業にとって、何が環境問題なのかを定義づけし、その環境問題への対策費用を全社から洗い出し、集計することである。だが、費用の内の環境コストを識別することは、割合がまちまちで、不確かである。環境コストの把握は、企業が自社の環境活動を経済効率的に行うための指標とはなるが、企業間の環境対策比較のツールにはならないし、企業会計のように外部公表目的では使いようが無い、不確かなものである。環境省はガイドラインを策定したが、何が環境コストなのかについては企業任せの状況である。今後の環境会計は、「フルコスト環境会計」と呼ばれ、地球環境問題を解決するツールとして発展していかなければならないものである。環境負荷と環境対策のコストバランスが取れていない結果、地球がコストを負担して環境破壊が進行している。だから、地球が負担している環境コストをできるだけ企業と社会が負担することが、今必要である。そして、企業が行政と連携して効果的に環境問題に取り組むために、情報公開と、環境会計の公表が必要となってくる。

<企業にとって環境活動の価値>
① 環境効率(資源、エネルギー効率)追求による経済の効率化
② 外部環境コストの内部化を前提としたコスト競争力の強化
③ 「環境」による経営の差別化
④ ユーザー(消費者)の環境指向への対応で商品力強化


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