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レポート : 報告 2000年2月12日 京都大学経済学部 吉田和男教授 「21世紀の日本型システム」
掲載日時: 2000-2-12 14:53:00 (100013 アクセス)

 20世紀の最後10年間は「日本経済の失われた10年」と言われます。低迷を続ける日本経済。一体何が日本の景気回復を遅らせているのでしょうか。

 私は、日本は「次のパラダイム」に乗り損なってしまったと考えています。「通信」「金融」「教育」。この3つの要素についてアメリカと日本を比較してみるとよく分かります。

 1970年代、アメリカは経済政策の失敗を打開するために通信と金融に関する大革命を行いました。通信分野では大幅な規制緩和が進められ、通信技術が急速に発展しました。80年代には国防省にインターネットの前衛となるシステムが生まれ、早い時期から家庭用コンピュータにおいて高速大量通信が可能になりました。同じ時期に日本は何をしていたかと言うと、ようやく電電の民営化に取りかかり始めていました。しかし完全な民営化にはほど遠く、通信技術の発達・普及においてアメリカに大きな後れをとってしまいました。

 次に金融についてです。アメリカでは1970年代、銀行が証券業を兼任することを禁止したグラス・スティーガル法が廃止されました。一時は大混乱となりましたが、その中で新しい手法が次々と生まれ、根づいていきました。金融の世界に一番大きな影響を与えたのがMMF(Money Management Fund)の登場です。これにより、一部の機関投資家にしか許されていなかった投資が一般の人にも開放され、人々の投資に関する知識水準が大幅に向上しました。同じ時期日本はバブル絶頂期で、「何もしなくても儲かる」状況が続いたためビジネスに対する感覚が次第にボケていきました。

 最後は教育です。アメリカは1970年代の早い時期に教育改革に取り組み始めました。従来の自由放任教育の欠点に気付き、「ビジネス教育」を取り入れ始めたのです。日本ではこの時期「何でも一通り出来るゼネラリスト型人間」が必要とされたため、ビジネスを学ぶはずの商業大学・高校は次々と普通科・帝国大型に移行していきました。結果、ビジネス手法に関して独創的な人間が「構造的に」生まれない仕組みになってしまいました。

 「通信」「金融」「教育」。この3つの改革が相乗効果となって今のアメリカの好景気があります。日本がバブルで浮かれている間にアメリカは必死になって勉強していました。同国が次のパラダイムにいち早く進むことが出来た最大の要因はここにあります。

 今、世界は「資本主義」経済から「知識主義」経済に向かいつつあります。勝ち残るのは資本家ではなく、知識をもつ者。その知識とは「Business Knowledge」に他なりません。インターネットでモノが簡単に調達できるようになった今、ビジネスの成功は資本ではなくその「手法」にかかっています。顧客のニーズをうまく掴む手法を思いつきさえすれば、例え資本をもっていなくても大成功を収めることが不可能ではないのです。残念ながらこの「知識」において、日本はアメリカとは比較にならないほど低い水準にいます。

 「資本主義」から「知識主義」へ。この傾向を私は「原始資本主義経済への回帰」と呼んでいます。ベンチャーや自営業、これは江戸時代には当たり前に見られていたものだからです。日本人は集団主義だとよく言われますが、それは違います。江戸時代、日本では公家商人や町衆が「自主独立」をモットーとしていきいきと生活していました。私達は今一度、この江戸時代の個人主義を見直すべき時期にきているのではないでしょうか。

 個人主義を支え、「知識主義」経済を生き抜く独創的な人間を増やす。そのために今日本に必要なのは「ビジネス教育」です。ベンチャーや自営業に取り組もうとしている人達にビジネス教育を施す環境を整える必要があります。

 時間がかかっても何とか「ビジネス教育」を浸透させ、「個人主義」を取り戻す。それが失われた10年を取り戻し、次のパラダイムへシフトする力の源泉となるのではないでしょうか。

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